中小企業M&Aでよく使われる「年買法」とは?実務に根ざした企業評価のリアル

中小企業のM&A(事業承継・株式譲渡)では、買い手と売り手の合意を形成するうえで、**企業価値の評価(バリュエーション)**が重要なステップになります。

理論的には、企業価値の算定方法には主に以下の3つのアプローチがあります。


一般的な企業価値の評価手法

  1. インカムアプローチ(DCF法など)
     将来のキャッシュフローを割引いて現在価値に換算。
  2. マーケットアプローチ
     類似企業の取引事例や上場株式の指標(PER等)を基に評価。
  3. ネットアセットアプローチ(純資産法)
     時価ベースで資産・負債を整理し、企業の純資産から評価。

実務で多用される「年買法」とは?

中小企業のM&A現場では、上記のような理論的手法ではなく、**「年買法」や「仲介会社方式」**と呼ばれる簡便な評価方法が実際には多く用いられています。

この手法の基本構造は、次のとおりです。

株式価値=時価純資産 + 営業権(のれん)

この「のれん」の部分を、以下の式で算出するのが年買法の特徴です。

営業権(のれん)=正常利益 × 一定年数(年買年数)


「一定年数」はどう決まる?

この「一定年数」は、実務では3年~5年程度が多く採用されている印象です。

  • 3年であれば慎重な評価
  • 5年であればやや強気な評価

といったように、のれんの金額に影響するため、交渉の中で調整されることもあります。

ただし、この「×年数」に明確な理論的根拠があるわけではありません。あくまで、「買収金額を何年で回収できると見込むか」という感覚値に基づいた慣行的手法です。


実務的に使われる理由

このような簡便法が広く用いられている背景には、以下のような理由があります。

  • 中小企業では、将来キャッシュフロー予測が困難
  • 決算書や税務申告ベースでの評価が主流
  • 複雑な数理モデルよりも、双方が納得しやすい計算式の方が交渉が進みやすい

要するに、理論的な厳密性よりも、実務的な納得感が重視されるのです。


まとめ:現実を捉えた評価が中小企業M&Aを動かす

中小企業のM&Aにおいては、「完璧な理論」よりも「現場感覚で納得できること」が重要です。年買法は、一定の恣意性がある一方で、**売り手・買い手双方の落としどころを見出すための“現実的な道具”**として活用されています。

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