青色申告の落とし穴?「青色欠損金控除」でヒヤリとしないために

法人の決算を迎える経営者の皆さまへ――
「今期は黒字だけど、過去に赤字があるから税金はかからないはず」と安心していませんか?
実は、その安心感の裏に“想定外の納税”という落とし穴が潜んでいるかもしれません。
今回は、**青色申告をしている法人が活用できる「欠損金の繰越控除制度」**について、よくある誤解と注意点を含めて解説します。
■ 欠損金の繰越控除とは?
法人が青色申告をしている場合、ある事業年度で生じた赤字(欠損金)は、翌事業年度以降の所得と相殺して法人税額を軽減できます。
この制度により、黒字でも過去の赤字と相殺して納税額を抑えることが可能です。
控除できる期間は原則10年間。ただし、これは「中小企業者等」に該当する法人が対象です(※注)。
たとえば:
- 前期:▲1,000万円の赤字
- 今期:500万円の黒字
→ この場合、500万円分の黒字と相殺され、法人税は発生しません。
このように、欠損金の繰越控除は、経営のリスクを平準化するありがたい仕組みです。
■ ただし……全額控除できないケースも!
ここで注意が必要なのが、「大法人」に該当する場合の取扱いです。
平成30年4月1日以後に開始する事業年度から、資本金等の額が1億円を超える法人は「中小企業者等」に該当せず、欠損金の控除は所得金額の50%までに制限されています(法人税法第57条の2など)。
✅ 「資本金等の額」とは?
単に資本金の金額だけでなく、資本準備金なども含まれる払込資本の合計額で判断されます(法人税法施行令第8条)。
そのため、表面上の資本金が1億円未満でも、資本準備金との合計で1億円を超えていれば、控除制限の対象となる可能性があります。
■ 想定外の納税が発生する「ヒヤリハット」
たとえば、以下のようなケースでは注意が必要です。
- 今期の所得:1,000万円
- 繰越欠損金:5,000万円
- 資本金等の額:1億2,000万円
この場合、本来であれば1,000万円の所得をすべて欠損金で控除したいところですが、50%(=500万円)までしか控除できません。
残りの500万円は課税対象となり、法人税等の納税が必要になります。
「欠損金がたくさんあるから税金はかからない」と安心していたら、思わぬ納税が発生する――。
それがこの制度の“落とし穴”です。
■ 対策:事前シミュレーションが命!
このようなリスクを避けるには、申告前の綿密なシミュレーションと制度理解が不可欠です。とくに以下の点を重点的に確認しましょう:
- 資本金等の額の確認(資本準備金も含むか?)
- 当期所得と欠損金控除の限度額(全額 or 所得の50%か?)
- 繰越欠損金の残高管理
- 必要に応じて、税務顧問への早期相談
また、法人税のほかにも法人住民税の均等割など、黒字・赤字に関係なくかかる税金があることも念頭に置きましょう。
■ まとめ
青色欠損金控除は、経営の助けになる重要な税制です。
しかし、制度を正確に理解しないまま利用すると、「黒字なのに納税が発生してしまう」という事態にもなりかねません。
経営者として“思い込み”ではなく“制度に基づいた冷静な判断”を心がけ、
万全の対策を講じましょう。
【参考リンク】
▶ 国税庁タックスアンサー No.5762 「青色欠損金の控除」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5762.htm
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