「誰に渡したかは頭の中で分かっています」では経費になりません ― 商品券の代金が経費として否認された裁判から

お世話になった方へのお礼に、商品券を使うことがあります。現金よりも渡しやすく、相手にも喜ばれます。ところが、商品券は「記録」をきちんと残しておかないと、会社の経費として認められないことがあります。今回は、商品券の代金がまるごと経費として認められなかった裁判(東京地方裁判所 2015年9月9日判決)をご紹介します。

1.どんな事件だったのか

ある会社グループが、大学を新しくつくる準備をしていました。その中の1社が、デパートでまとまった額の商品券を買い、その代金を交際費として経費にしました。

その後の税務調査で、調査官は「この商品券を、誰に渡したのか分かる書類を見せてください」と求めました。会社の代表者の答えは、次のようなものでした。

渡した相手はたくさんいるので、明細は作っていない。
でも、誰に渡したかは頭の中では分かっている。

結局、書類は出てきませんでした。税務署は「使い道が分からない」として、商品券の代金を経費として認めませんでした。会社はこれを不服として裁判を起こしました。

2.裁判で会社は何を主張したか

裁判になってから、会社は「商品券は、仕事で協力してくれた人たちへのお礼や、面接に来てくれた人たちの交通費として渡しました」と説明しました。

ところが、この説明は、裁判の前の段階で会社が言っていた内容と、大事なところで食い違っていました。また、会社が出してきた名簿などを見ても、「その人に商品券を渡した」と分かる記載はありませんでした。

3.裁判所の判断 ― 「使い道が分からないものは経費にできない」

裁判所は、会社の訴えを認めませんでした。理由をやさしく言うと、こうです。

会社の経費として認められるのは、仕事のために必要だった支出だけ。
だから、何に使ったのかを特定できず、仕事に必要だったと確かめられない支出は、経費にはできない。

この事件では、「いつ」「どこで」「誰に」「何のために」「何枚」渡したのかを書いた帳簿もなく、相手から受け取ったことを示す書類もありませんでした。そのため、商品券の使い道はまったく分からず、商品券の代金は全額、経費として認められませんでした。

ここで大事なのは、「交際費かどうか」を議論する前に、そもそも「経費になるかどうか」で負けてしまったということです。交際費は、取引先などへの接待や贈り物のための支出をいいますが、その前提として「本当に仕事のために使った」ことが分からなければ、話が始まりません。

4.おこづかい帳と同じです

子どものころ、お年玉の使い道をおうちの人に聞かれたことはないでしょうか。「何に使ったの?」と聞かれて、「頭の中では分かっているよ」と答えても、なかなか信じてもらえません。おこづかい帳に「○月○日 本 800円」と書いてあれば、一目で分かります。

税金の世界も同じです。税務調査や裁判では、証拠にもとづいて判断されます。社長の記憶は、どれだけ正確でも、紙に残っていなければ証拠になりにくいのです。

5.商品券を使うときに気をつけたい3つのこと

(1)渡したら、その日のうちに記録する
「日付」「相手の会社名・氏名」「渡した目的」「枚数・金額」を書きとめておきます。表計算ソフトの一覧表でも、手書きのノートでもかまいません。あとからまとめて書こうとすると、この事件のように記憶があいまいになります。

(2)買った枚数と渡した枚数を合わせておく
商品券は、買っただけではまだ「使った」ことになりません。決算の日に手元に残っている商品券は、その年の経費ではなく、会社の財産(貯蔵品)として扱うのが原則です。決算の直前にまとめて買って、全額を経費にするのは避けましょう。

(3)受け取った証拠があれば、なお安心
交通費の代わりに渡す場合などは、相手に受領のサインをもらっておくと、「確かに渡した」ことの強い証拠になります。

6.まとめ

この判決が教えてくれるのは、とてもシンプルなことです。使い道や渡した相手について、はっきりとした記録を残しておくこと。それが、税務調査で説明できる会社であるための、いちばんの備えです。

商品券や現金に近いもので謝礼を渡すときは、「あとで誰かに説明できるか」を考えてみてください。記録のつけ方で迷われたときは、お気軽に当事務所までご相談ください。

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