消費税の納税が毎年つらい方へ──「予納ダイレクト」という貯金箱

「消費税の納税額を聞いて、毎年ぞっとする」──決算のたびに、そうおっしゃる社長は少なくありません。
無理もないのです。消費税は、お客様から預かったお金を、後からまとめて国に納める税金です。手元にある間は自分のお金のように見えてしまいますし、その間に仕入や給与の支払いが来れば、つい使ってしまいます。そして納付の時期に、まとまった金額を一度に用意しなければならない。仕組みそのものが、資金繰りを苦しくするようにできています。
この「一括でドン」を「毎月コツコツ」に変えられる制度が、国税庁の予納ダイレクトです。2019年から使えるようになっていますが、まだあまり知られていません。
1.ひとことで言うと
これから納めることになりそうな税金を、申告の前に、少しずつ前払いしておける仕組みです。指定した日に、登録した口座から自動で引き落とされます。
イメージは「貯金箱」です。納税用に別口座を作って積み立てている会社もありますが、あれは結局いつでも引き出せてしまいます。資金繰りが苦しくなれば、手が伸びる。予納ダイレクトは、入れたお金がそのまま国に渡ってしまうので、物理的に使えなくなるのが最大の値打ちです。
2.使える税金と、基本のルール
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 使える税金 | 申告所得税及復興特別所得税/消費税及地方消費税/法人税及地方法人税/贈与税 |
| 税目の組合せ | 課税期間が同じであれば2税目まで(法人税+消費税、所得税+消費税など) |
| 手数料 | 無料(何回引き落としても、かかりません) |
| 前提 | e-Taxのダイレクト納付(口座振替)が使える状態になっていること |
申告で税額が確定したら、積み立てた分が自動的にその税金に充てられます。足りなければ差額だけを納付し、多すぎれば差額が還付されます。積みすぎて損をすることはありません。
3.始め方は3ステップ
- ①ダイレクト納付が使えるようにする……まだの方は、税務署に「ダイレクト納付利用届出書」を提出します(e-Taxからも提出できます)。口座の登録に数週間かかることがありますので、早めに。
- ②e-Taxソフト(WEB版)にログインして「予納申出」……法人は利用者識別番号と暗証番号、個人はマイナンバーカードなどでログインします。
- ③納付日と金額を登録……「毎月25日に10万円」というように、日付と金額を並べて登録するだけです。あとは自動で引き落とされます。
税務署に出向く必要も、ネットバンキングの契約も要りません。登録が税務署側に反映されるまで数日かかりますので、初回の引落日には余裕をみてください。
4.いくら積めばよいか
難しく考える必要はありません。前期の納税額をベースに、その8割程度を月数で割る、という決め方をよく耳にします。
前期の消費税が120万円だった会社の場合
120万円 × 8割 = 96万円 → 毎月8万円 × 12回を登録
控えめにしておくのは、業績が落ちて納税額が減ったときに「積みすぎ」にならないようにするためです。売上が伸びている実感があれば、満額で組む考え方もあります。足りない分は申告時に納めれば済みますので、迷ったら少なめから始めるのが無難です。
なお、中間納付がある会社は、中間納付額を差し引いた残りが予納の目安になります。ここは決算の見通しと合わせてご相談ください。
5.ここだけは押さえてください(3つの注意点)
便利な制度ですが、「入れたら戻せない」という性格があります。ここを理解しないまま始めると、かえって資金繰りを苦しくします。
- ①申告まで返してもらえません……いちど予納したお金は、申告で税額が確定するまで還付を請求することができません(国税通則法59条)。「今月は苦しいから返してほしい」は通りません。銀行預金とはまったく別物だとお考えください。
- ②1回でも引き落とされると、申出そのものは取り消せません……まだ引き落とされていない先の予定については、状況により変更・削除ができます。しかし、申出全体を無かったことにはできません。だからこそ、最初の金額設定を控えめにすることが大切です。
- ③口座残高にご注意を……引落日に残高が不足すれば、当然ながら引き落とせません。給与や仕入の支払日と重ならない日を選ぶのがコツです。
6.それでも、おすすめしたい理由
消費税を滞納してしまうと、まず延滞税がかかります。2026年の場合、納期限の翌日から2か月までは年2.8%、2か月を過ぎると年9.1%です。2025年の8.7%より上がっており、金利上昇に合わせて年々重くなっています。
さらに、税務署との分割交渉が必要になり、何より銀行の評価が大きく下がります。「納税が遅れる会社」という記録は、次の融資のときに必ず効いてきます。
予納ダイレクトは、その最悪のシナリオを、月々の小さな引落しで防ぐ仕組みです。毎月決まった額が出ていくことを前提に資金繰りを組めば、決算のときに慌てることがなくなります。
「今期は消費税がいくらになりそうか」が分かれば、毎月の金額はすぐに決められます。決算の着地見込みとあわせて、遠慮なくお声がけください。手続きの画面操作も、一緒に進めます。
※本記事は2026年9月時点の法令等に基づいています。個別の判断は必ず担当税理士にご確認ください。
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