社長が会社に貸したお金、どう片づけますか ― 役員借入金の4つの解消方法と「債務免除」の注意点

決算書の負債の部に「役員借入金」「短期借入金(役員)」という科目はないでしょうか。社長が自分のお金を会社に入れて、そのままになっている状態です。科目の名前は会社によってさまざまで、単に「短期借入金」の中に含まれていることもあります。銀行からの借入れと区別がつくよう、内訳を一度確認してみてください。

「資金繰りが苦しい月に、自分の貯金から入れた」
「役員報酬を払ったことにして、実際は会社に残してある」
「赤字が続いて銀行が貸してくれないので、自分が貸した」
中小企業では、どれもごく自然に起きることです。

社長と会社のあいだの貸し借りですから、放っておいても誰にも迷惑はかからない――そう思われがちです。ところが、社長に相続が起きたとき、この借入金が思わぬ税金を生みます。今回は、役員借入金を減らす方法を整理したうえで、その中でもいちばん簡単に見えて、いちばん落とし穴の多い「債務免除」を詳しく見ていきます。

1.なぜ、放っておいてはいけないのか

会社から見れば「借金」ですが、社長から見れば「会社に貸しているお金=返してもらう権利」です。これは預金や土地と同じ、立派な財産です。

社長に相続が起きると、この権利は相続財産として相続税の対象になります。問題は、その値段の付け方です。

会社が赤字でも、借金のほうが多くても、原則として「額面どおり」に評価されます。
3,000万円を貸していれば、会社に返す力がまったくなくても、3,000万円の財産として相続税がかかります。

「返ってこないお金なのだから、ゼロで評価してほしい」という主張は、裁判でも何度も退けられています。ゼロ(または減額)で評価できるのは、会社が破産手続きに入ったなど、経営が破綻していることが客観的に明らかな場合に限られる、というのが裁判所の考え方です(青森地裁2021年10月22日判決など)。

つまり、現金にならない権利に、現金で相続税を払うことになりかねません。さらに、会社を継がないご家族がこの権利を相続すれば、「返してほしい」と会社に請求できる立場になります。事業承継の火種にもなるわけです。

また、相続の前であっても、何年も残高が動かないままだと「本当に返す気があるのか」と見られ、実質的には債務免除があったものとして、会社の利益に課税されるおそれがあると指摘されています。

2.役員借入金を減らす4つの方法

方法内容注意点
①計画的に
現金で返す
会社から社長へ、毎月決まった額を返していく。貸したお金が戻ってくるだけなので、社長に所得税はかからない。最もシンプルで確実。会社の資金繰りに余裕があることが前提。
②役員報酬を減らして
その分を返済に回す
たとえば報酬を月100万円から80万円に下げ、差額の20万円を借入金の返済として払う。社長が受け取る総額は変わらないまま、所得税・住民税・社会保険料が軽くなる。会社の経費(役員報酬)が減るので法人税は増えることがある。会社が赤字で繰越欠損金があるときに向く方法。
③DES
(借金を株に換える)
社長の貸付金を会社に出資し、代わりに株式を受け取る。借金が資本金に変わり、決算書の見た目が大きく良くなる。会社が債務超過だと、額面より低い「時価」で評価され、差額が会社の債務免除益になる。資本金が1,000万円・1億円などの基準を超えると、消費税や法人税の特例に影響が出る。
④債務免除
(返さなくていいよ)
社長が「もう返さなくていい」と権利を放棄する。お金も株も動かず、手続きも比較的簡単。会社に債務免除益が出て法人税がかかることがある。株価が上がり、ほかの株主に贈与税が生じることもある。→ 次章で詳しく

会社にお金があるなら①、赤字が続いているなら②、決算書を立て直したいなら③。そして、「返すあてがない借入金を、手間をかけずに消したい」ときに候補に挙がるのが④です。

3.債務免除 ―「返さなくていいよ」は、会社にとって“もうけ”になる

いちばん大事なポイントから。

友だちから1万円借りていたとします。「もう返さなくていいよ」と言ってもらえたら、財布の中身は変わらなくても、1万円得をしたことになりますよね。
会社も同じです。社長に「返さなくていい」と言ってもらうと、借金が消えた分だけ会社は得をします。税法では、これを債務免除益(さいむめんじょえき)というもうけ(益金)として扱います(法人税法22条2項)。

社長は親切でお金を貸し、親切で「返さなくていい」と言っただけ。それなのに、会社には法人税がかかる利益が生まれます。ここを知らずに放棄すると、思わぬ納税が発生します。

カギを握るのは「繰越欠損金」

ただし、この“もうけ”は、会社に過去の赤字(繰越欠損金)が残っていれば、その赤字と相殺できます。役員借入金がふくらんでいる会社は、たいてい赤字が続いてきた会社ですから、実は相性のよい組み合わせです。

例:役員借入金3,000万円、繰越欠損金2,000万円の会社債務免除益欠損金と相殺した後
3,000万円を全額放棄する3,000万円1,000万円に法人税
2,000万円だけ放棄する2,000万円0円

つまり債務免除は、「いくら放棄するか」を、繰越欠損金の残りを見ながら決めるのが基本です。残った1,000万円は、①や②の方法で少しずつ減らしていきます。その年の本業の損益によっても結果が変わりますので、放棄する前に必ず決算の見込みと一緒に試算してください。

4.「期限切れの赤字」は使えるのか ― 裁判例からの教訓

繰越欠損金には使える期限があります。期限を過ぎた古い赤字(期限切れ欠損金)は、原則として相殺に使えません。

ただし例外として、会社更生や民事再生のように会社を立て直すための正式な手続きの中で債務免除を受けた場合には、期限切れの赤字も使える仕組みがあります(法人税法59条)。

では、社長が自分の会社に対して債務免除をした場合も、これに当たるのか。これが争われたのが熊本地裁2010年10月1日判決です。

認められませんでした。
その会社では、株主総会で役員の債権放棄を決めていました。しかし裁判所は、
・決めたのは経営陣である役員たちだけで、銀行や取引先など外部の債権者が関わっていない
・再建計画書など、会社を立て直すための具体的な計画がない
という点から、「身内だけで都合よく決めたもの(恣意性が排除されていない)」と判断し、期限切れの赤字との相殺を否定しました。

身内だけで「返さなくていいよ」と決めるのは、正式な再建手続きとは別物だ、ということです。期限切れ欠損金まで使いたいのであれば、第三者から見ても合理的な事業再生計画が必要になります。一般的な中小企業の債務免除は、期限内の繰越欠損金の範囲で考えるのが現実的です。

5.株価が上がる ― ほかの株主がいる会社はご注意

借金が消えれば、会社の中身(純資産)は良くなります。すると、会社の株の値段(株価)も上がります。

株主が社長おひとりであれば、自分の株が値上がりするだけです。問題になるのは、奥さまや後継者など、ほかにも株主がいる場合です。

社長が「返さなくていい」と言ったおかげで、奥さまが持っている株が値上がりした。
これは、社長から奥さまへ、値上がり分をプレゼントしたのと同じだと考えられます。
そのため、ほかの株主には贈与税がかかることがあります(相続税法基本通達9-2)。

とくに、会社がまだ債務超過のうちに債務免除をするか、プラスに転じるところまで債務免除をするかで、株価への影響は大きく変わります。株主構成をあわせて確認してから、金額を決めてください。

なお、社長個人の側では、放棄した金額を「損をした」として所得税を減らすことは基本的にできません。社長にとっては、税金の上では何も起きず、財産が減るだけです。それでも実行する価値があるのは、先ほどの相続の問題があるからです。

6.債務免除をするときの手順

手続き自体は簡単です。そのぶん、「いつ、いくら、誰が決めたか」を書類で残すことが大切です。

  1. 役員借入金の正確な残高と、発生した経緯を確認する……総勘定元帳をさかのぼります。
  2. 繰越欠損金の残りと、今期の損益見込みを確認する……放棄する金額はここで決まります。
  3. 株主構成と株価への影響を確認する……ほかの株主がいれば贈与税を試算します。
  4. 社長から会社へ「債権放棄通知書」を出す……日付と金額を明記します。
  5. 取締役会(または株主総会)で承認し、議事録を残す……会社はこれにもとづいて債務免除益を計上します。

とくに決算の直前は要注意です。期末を過ぎてから「やっぱり放棄したことに」はできません。放棄する年度をまたがないよう、余裕をもって進めてください。

7.まとめ

  • 役員借入金は、社長にとって相続財産。会社が苦しくても原則は額面で評価されます
  • 減らし方は4つ。現金返済・報酬減額・DES・債務免除を、会社の状況に合わせて組み合わせます
  • 債務免除をすると、会社には債務免除益(もうけ)が出ます。繰越欠損金の範囲内で放棄するのが基本です
  • 期限切れの赤字は、身内だけで決めた債務免除では使えないと判断された裁判例があります
  • ほかに株主がいる会社では、株価上昇による贈与税にも注意が必要です

役員借入金は、社長が会社を支えてきた努力の跡です。ただ、そのまま相続を迎えると、残されたご家族に「現金にならない財産への相続税」という形で重荷を残すことになります。赤字の繰越が残っているうちが、いちばん片づけやすい時期です。

「うちの借入金、いくらまでなら税金をかけずに放棄できるのか」――決算の見込みがあれば、すぐに試算できます。放棄の書類を作る前に、一度ご相談ください。

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